信者ちゃん王国

私は自販機に三ツ矢サイダーを深夜に買いにいく。引きこもりが唯一感じることのできる少しだけの夏だ。いつものように自販機に行くと先客がいた。お姉ちゃんだった。

「信者ちゃん。久しぶりだね。」

お姉ちゃんは酷く痩せていて真っ白なドレスを着ている。数年前までは一緒に住んでいたが、家を追い出された。お姉ちゃんが女の子の服を着ていたからだ。

 

 

 

お姉ちゃんは、昔はお兄ちゃんだった。

 

私が、学校に通わなくなって引きこもりになっても、一緒にゲームをして遊んでくれる優しいお兄ちゃん。お兄ちゃんは工業高校を出ると、地元の小さなに町工場に就職した。結婚をするかもしれない、という彼女もいた。それでもお兄ちゃんは、家にほとんどのお金を入れて、この窮屈な家で暮らしていた。昼夜逆転をしている私のために、深夜2時からいつも一緒にゲームをしてくれた。私の暮らしの中で唯一の楽しみであり、希望だった。

 

ある日、お兄ちゃんは突然家からいなくなった。

私にも、家族にも、彼女にも、職場に相談せずに、突然消えてしまった。3週間が立って、これ以上見つからないなら捜索願いを出そうと私と母が決意した日、深夜2時、私の前に現れた。

「久しぶりだね。」

聞き慣れた声だった。お兄ちゃんだ。私が振り向くと、お兄ちゃんは真っ白な布で覆われていた。

お兄ちゃんは、ウェディングドレスを着ていた。

「・・・お兄ちゃん、だよね?」

「お兄ちゃんではない!これからは"お姉ちゃん"と呼べ!そして、お前は自分のためだけに生きろ!!!!!」

白いクラゲの様なスカートから太くて黒い足が飛び出してきて、私の顔を思い切り蹴りあげた。

 

 

 

お姉ちゃん「あれから、今は何してる?」

信者ちゃん「インターネットを荒らしてます……。」

お姉ちゃん「……。」

 

信者ちゃん「私、インターネットを荒らすのが好きなんです。頭の中にモヤモヤしたものがあって、それが煙のようになって、やがて炎になるんです。私の炎のせいで、対岸の見ず知らずの家が燃えているんです。私はどうすることも出来なくて、近所の人が消防車を呼ぶんです。私は消防士の人が火を消しているのを、邪魔にならない位置で、ただ眺めているだけなんです。私の責任なのに何もすることが出来ないんです。今日もインターネットを荒らしました。恋愛小説や恋愛漫画の感想欄に、クリスマスソングを流しながら女の子をレイプするっていう内容のコピペを連投するんです。私、最近、気付きました。自分が嫌いな事を表すのにも自分の言葉じゃないんです!!!」

 

お姉ちゃん「あなたは相変わらず声も小さいしモゴモゴしてて、何を言ってるかほとんど聞き取れなかった。でも、気持ちは伝わった。これからは自分の言葉で荒らしなさい。そして自分だけの王国を築くのよ。あなたは王様で、私がお姫様になるわ!!国の名前は『信者ちゃん王国』にしましょう!」